古民家リノベーションの究極技法『家揚げ』。中古住宅の基礎工事を根底から覆す技術。

2020年7月8日古民家暮らし

家を建てる時、工務店さんから古民家リノベーションの工事の流れを説明してもらいました。その中で一番びっくりしたのが「家揚げ」でした。

家揚げ・家曳き

家揚げ(いえあげ)というのは、文字通りまるごと家を空中に持ち上げることです。

この家揚げ、場合によっては家を横に移動させることもあるとか。これは家曳き(いえびき)と呼ぶそうです。

家を持ち上げて道路を横断させたという話も聞かせてもらいました。電線がやっかいだったとか。すごいですよね!

住宅にとって最も大切な基礎工事

昔ながらの伝統的な建物というのは、石(基礎石)の上に柱が乗っているだけという構造になっています。

柱同士は足固めと呼ばれる横の構造でつながっていますが、基礎と家とはつながっておらず地震になると柱がズレたりする。ただこれが一種の免震構造となって家を守っていたわけですね。

ちなみに基礎石の下にはさらに巨大な石が埋められている場合も多いのだとか。案外しっかりと作られているようです。

現在ではこの工法で住宅を新築することは難しいとか。コンクリートで基礎を構成するのが一般的。

実は今回、予算上の問題で基礎石に柱を置いたままコンクリートを流し込むというやり方も話には上がっていました。

ただこれだと強度上も断熱上も劣るということで、内装費用を削って予算を捻出したという次第です。

基礎が適当だと、シロアリにやられたり、ときには孟宗竹のタケノコに床板をぶち抜かれたりしてしまいます。

基礎工事だけは後からやりなおすことができません。ここはしっかり考えたいところです。

我が家の場合はあくまでもリフォームなので家を横に動かすことはありません。純粋に真上に持ち上げてその下に基礎を構築するだけです。

現代的な基礎工事のために家を「持ち上げる」技術。それが家揚げです。

古民家リノベーションの家揚げ

この話はあくまで我が家の実例です。家造りには決まったパターンがあるわけではありません。今回の場合はいわゆるベタ基礎が完成イメージとなります。

スケルトン古民家
基礎工事前の古民家スケルトン

古民家の壁と床板をはがしてスケルトンにした状態です。柱は基礎石の上にのっています。床下はすべて土ですね。ここが工事のスタート地点になります。

この状態からいきなり柱を持ち上げる…というわけではないようです。油圧ジャッキを土の上に固定するのが難しいのだとか。この後の作業の依存関係上も必要みたいです。

まずベース基礎

ベースの基礎コンクリートをまず打設しました。立ち上がり(布基礎)の位置に柱が立っています。これを立ち上がりの上端より上まで持ち上げる必要があります。柱はそこに乗るわけです。

まず、本来の柱のすぐ横につっかい棒となる支柱をいれてそれを油圧ジャッキで持ち上げます。すると柱が持ち上がるわけです。考え方はそんなに難しくないですね。

神経を使いそうな作業です

ある程度持ち上がったら本来の柱の下にジャッキを入れてさらに持ち上げていきます。

ところで、柱は数十本あるわけで、一本だけを突然グイと持ち上げたら建物は歪んで壊れてしまいます。このためにすべての柱を同時に持ち上げる必要があります。

やり方としては、数ミリずつすこしずつあげる・かけごえをかけながら複数人数で行う、など色々やり方があるようです。現代ではコンピューターですべてのジャッキを自動制御して行う方法もあるみたいですが、ここでは職人さんが温かみのある手作業でこれを行います。

こうして基礎の立ち上がりをまたぐところまで徐々に柱を持ち上げて枕木を積み木のように重ねていく。こういった道具はずっと昔から使われ続けているらしく、この枕木にもたくさんの家揚げの歴史が刻まれていそうです。

立ち上がりをまたいでいます

無事に目的の高さまで持ち上げられてジャッキがとりはずされたのがこちらの画像です。都度都度高さと水平をチェックしながら行う大変な作業のようですが、上げ始めると案外1日2日で終わってしまう作業なのだそうです。

立ち上がりの打設

あとは鉄筋を補強して立ち上がりのコンクリートを打設すれば完成です。

基礎できあがり
近代的なベタ基礎に近いものができました

古い柱が見事に持ち上がって40センチの基礎コンクリートの上に乗りました。これで基礎工事は完成です。

ビフォーアフター

ビフォー
アフター

ここまでの本格的な家揚げはいまやほとんど無いとのこと。

我が家は文化財ではありませんが、わりと歴史的(笑)なイベントだったみたいです。むしろここまでできる工務店さんが貴重なのかもしれません。

以上、築100年越えの古民家でもここまでやれる!という家揚げ・基礎工事の実例でした。ぜひ貴方のリノベーションの参考にしてください。

家揚げの今とこれから

昔は道路の改修や大水浸水の対応のため、家揚げや家曳きの需要が多くありました。建物が貴重だった時代には3階建ての建物などは動かして使っていたそうです。

いまは解体の技術も進みスクラップ&ビルドしたほうが安上がりなので需要がなくなってしまったとか。今では地盤沈下等で傾いた家を修正する際に登場する程度だそうです。

家揚げは専門の職人さんというのがいるそうです。ただ今は家揚げのしごとが減って後継者も少ないそうで、兼業で農家をしていたりするのだとか。

出雲ではもう家揚げの職人さんは1軒だけなのだそうです。

けれど、古民家リノベーションにとって基礎工事と断熱改修は最大のポイントであるはずです。であるならばこの技術、ロストテクノロジーとしてはいけない!

ブログ主は強くそう考えるのでした。