菅谷たたら山内は千年以上続く鉄づくりの里。現代科学を駆使しても未だに作り出すことのできない”玉鋼”とは?

出雲のスポット

鉄づくり1000年の歴史をもつ日本遺産”たたら製鉄”

大正10年まで操業が続いた【菅谷たらた高殿】
大正10年まで操業が続いた【菅谷たらた高殿】

中国山地にほど近い、島根県雲南市と奥出雲町周辺の山間地に、たたら製鉄を行った高殿と集落が残っています。

スタジオジブリのアニメ映画「もののけ姫」に登場する“たたら場”のモデルになったのが、ここ「菅谷(すがや)たたら」だといわれます。

一帯の山々から豊富に産出される砂鉄を使って、1000年以上続いた鉄づくりの里です。

世界一純度の高い鉄『玉鋼(たまはがね)』を生み出すたたら製鉄

たたら製鉄とは、粘土で作られた巨大な炉を使い、砂鉄と炭火によって鉄を作り出す古来の製鉄法です。

村下(むらげ)と呼ばれるリーダーは、三日三晩一睡もせずに、砂鉄を足し、炭を足して作業します。

出来上がった鉄は数種類に分けられますが、そのなかのもっとも純度の高い部分を「玉鋼」といいます。

優れた日本刀には、この「玉鋼」が不可欠です。

しかし、現代科学を駆使した最新設備の金属工場をもってしても、いまだに「玉鋼」を造ることができないのだといいます。

日本遺産になった菅谷たたら高殿(たかどの)と山内(さんない)

高殿内に設置された【たたらの炉】
高殿内に設置された【たたらの炉】

2016年4月、文化庁は「出雲國たたら風土記-鉄づくり千年が生んだ物語-」として、たたら関連施設を日本遺産として認定しました。

「菅谷たたら高殿」は、宝暦元年(1751年)から170年間操業を続けました。

そして大正10年に幕を閉じましたが、建物は保存されています。

高殿は、たたらの炉をはじめ、材料の砂鉄、炭など一切が用意された製鉄場です。

内部へ入って見学することができます(有料)。

たたらで働く人々が生活した【たたら山内】
たたらで働く人々が生活した【たたら山内】

また、たたらに従事する人々が生活する「山内」と呼ばれる集落も日本遺産です。

保存されている山内には、現在も多くの人が生活しています。

国の特別天然記念物”オオサンショウウオ”が生息する菅谷川・雨谷川

ほのぼのとさせてくれる【オオサンショウウオの看板】
ほのぼのとさせてくれる【オオサンショウウオの看板】

高殿の西側に流れているのが菅谷川、そこへ合流していくのが雨谷川です。

川沿いにかわいい看板が立っています。

国の特別天然記念物のオオサンショウウオが生息しているということです。

運が良ければ、会えるかも知れません。

ぜひ、川をのぞいてみてください。

そしてもう一つ、ここはゲンジボタルの一大乱舞地です。

ホタルの時期は毎年6月上旬の10日間くらいですが、現地の状況を聞いておくことをおすすめします。

・問い合わせ:菅谷たたら山内 TEL.0854-74-0350(月曜休館)

奥出雲「たたら」をもっと詳しく知るための施設や刀剣館

はるか1400年前に始まったと伝えられるたたら製鉄。

最盛期には日本全国の鉄の8割が、奥出雲周辺で造られていたといいます。

「たたら」についてもっと知りたくなったら、おすすめしたいところがあります。

鉄の未来科学館

【鉄の未来科学館】外観
【鉄の未来科学館】外観

鉄の最新技術と可能性を紹介すると同時に、世界の古代からの製鉄炉の変遷を振り返るなど、新旧の鉄について学ぶことができます。

住所:雲南市吉田町吉田892-1(月曜休館)

鉄の歴史博物館

たたら製鉄の技術、歴史を展示・紹介しています。

「和鋼風土記」というタイトルのVTRを視聴すると、「たたら」の凄さが実感できます。

1号館、2号館に分かれ、資料も豊富です。

住所:雲南市吉田町吉田2533(月曜休館)

奥出雲たたらと刀剣館

たたら製鉄の歴史と鉄づくりのシステムを解説する資料館です。

昔の鉄づくりが、古来の知恵といいながら、素晴らしく科学的にシステム化されていたことに驚かされます。

また、現在の日本で唯一たたら操業を行う「日刀保たたら」と「玉鋼」についても展示紹介しています。

住所:奥出雲町横田1380-1(月曜休館)

たたら製鉄の名家・鉄師御三家(てつしごさんけ)

たたら製鉄はで製造された鉄材は、当時の松江藩の重大な財源でした。

「鉄山行政」の指定業者として、藩に保護されたのが鉄師です。

なかでも突出した鉄師が、御三家と呼ばれる「田部(たなべ)家」・「絲原(いとはら)家」・「櫻井(さくらい)家」でした。

田部家のほかは、邸内や資料が公開されているので、観賞することができます。

田部家の白壁土蔵群

かつての栄華が偲ばれる【田部家土蔵群】
かつての栄華が偲ばれる【田部家土蔵群】

雲南市吉田町に、田部家の白壁の土蔵群が異彩を放っています。

一時は、蔵の数が21まで増築されたという繁栄ぶりでした。

この土蔵群を見るだけでも、かつての栄華を偲ぶことができます。

冒頭でご案内した「菅谷たたら」は、田部家のたたら場でした。

住所:雲南市吉田町吉田

絲原家・絲原記念館

たたら製鉄風景を模型で展示する【絲原記念館】
たたら製鉄風景を模型で展示する【絲原記念館】

江戸期から大正期に至る時期まで、松江藩の鉄師頭取を務めました。

絲原家に伝わるたたら資料や美術工芸品が、記念館(見学可)に展示されていて見ごたえがあります。

また、かつての居宅、庭園も開放されています。

住所:仁多郡奥出雲町大谷856-18

櫻井家・可部屋集成館

松平不昧公直筆の「岩浪」の書
松平不昧公直筆の「岩浪」の書

櫻井家は、戦国武将塙団右衛門(ばんだんえもん)の末裔です。

元文3年(1738)に建築された邸宅は、重要文化財に指定されています。

庭園には、かつての松江藩主松平不昧公が「岩浪(がんろう)」と名付けた滝が落ちています。

美術品やたたら資料が納められた集成館(見学可)は、見ごたえがあります。

住所:仁多郡奥出雲町上阿井1655

「日刀保たたら」のたたら操業と見学について

全国で唯一、昔ながらのたたら操業を行っているところがあります。

日刀保たたら」です。

ここは、日本美術刀剣保存協会が直接運営しているたたら場です。

日本刀の材料となる玉鋼を取ることを目的に、いまもなお続けられています。

操業は原則年1回で、認定された2名の村下(むらげ)が作業にあたります。

たたら見学は、一般公開されていません。