なぜ726万円も?空き家取り壊しの行政代執行について、松江市の担当者に聞きました。
ついに来たか〜という感じのニュースです。以下は山陰中央新報からの引用。
松江市が9日、空き家対策特別措置法に基づく行政代執行で、倒壊の恐れがある同市美保関町北浦の「特定空き家」の解体を始めた。法定相続人が命令に応じなかったため、強制撤去に踏み切った。山陰両県内では初めてで、解体費は法定相続人に請求する。少子高齢化が進む中、各地で同様のケースが増えそうだ。
現場は市道に面して通行人に危害が及ぶ恐れがあり、老朽化で傾いた母屋が隣家の屋根にもたれ掛かっていることから、行政代執行によって強制的に取り壊す必要があると判断。期間は約1カ月間を予定し、約726万円の解体費は全額を法定相続人に請求する。
山陰中央新報
けれど、建物の取り壊し代なんて、2階建ての家を壊すとしてもせいぜい150万やそこらで済むはずです。なぜ726万円も請求されるんでしょうか?
この726万円という数字にびっくりしてしまったので、松江市の担当の方に話を聞きに行きました。以下、松江市の建築指導課主任さんのお話をもとにした構成です。
建物の状況が特殊だったから
結論から言いますと、この建物の状況が特殊だったから…、とのことです。
市道に面しているとは言え、その道がせまくて重機が入らない状況だったそうです。そのため家の裏側まで鉄板を敷いて工事道を敷設する必要があったとのこと。
個人情報ですから家の住所などは教えてもらえませんでしたが、美保関北浦といえば港町で、狭い路地に住宅が密集している地域です。
たしかに話を伺うと、特殊な状況であることは確かだったのではないかと思います。
また、家財やゴミの片付けが予想以上に大変であったこと。それと、工事着手のための調査費用なども全般が載った費用であったそうです。
担当の方いわく「執行の初回が特殊な状況となってしまったこともあり、数字がひとり歩きすることは心配している」とのことでした。
ブログ主のわたしも「エッ?700万円?」と思って話を聞きにいったわけですので、懸念はよくわかります。
ということで、「建物の状況が特殊だったから高額になってしまった」ということは、ここで松江市の担当者のお話として記載しておきたいと思います。
空き家対策特別措置法に基づく行政代執行ってなに?
そもそもの話ですが、この法律についてかんたんに解説します。
ブログ主は専門家ではありませんので、あまり詳しいことは書きませんが、とりあえず公式サイトはこちらです。
→ 空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報(国交省サイト)
「空き家」のなかでも、倒壊などの恐れのある「放置することが不適切である状態にある空家」を「特定空き家」と呼びます。なお特定空き家の判定基準は自治体にあって、松江市でも独自のチェックリストを運用しているとのことでした。
この特定空き家について、改善勧告や行政代執行(強制執行)を行えるようにするための法律が、いわゆる「空き家対策特別措置法」です。
まだ5年ほど前にできたばかりの法律なので、実際の執行例も数少ない状況です。
今回の執行もこの法律に基づいて行われたものです。主体は松江市となり、執行命令は松江市長によるものという形式になっています。
ちなみに、執行費用請求は、国税滞納と同じフローで行われるということでした。
なぜ行政代執行(強制執行)が行われた?
前述の空き家対策特別措置法では、強制執行にいたるまでのプロセスを定義しています。
まずは特定空き家の認定が前提としてあるわけですが、その後は以下の通りに進みます。
- 「特定空家等に対する措置」の事前準備(調査)
- 特定空家等の所有者等への助言又は指導
- 特定空家等の所有者等への勧告
- 特定空家等の所有者等への命令
- 特定空家等に係る代執行
この改善(取り壊し等)命令を無視し続けていると、最後は強制執行されてしまうというわけです。
今回の執行に至った物件ですが、最初の接触は平成23年だったそうです。都合8年かけて取り壊しにまで到達したというわけですね。
今回の物件について背景も少し伺ったのですが、それは細かい話になるので割愛します。ただ1つポイントがあるとすれば「不動産所有者の名義が複数であった」ことは大きかったようです。
話を伺った感じでは、やむを得なかったのかなという感触は受けました。
とはいえ700万は高いんじゃない?
これはぶっちゃけ担当者の方も認めてました。やっぱり行政がやると費用が高くなりがちなのは間違いないと。
命令通りでなくても、民間の不動産鑑定結果を提出してくれればそれを尊重するともおっしゃっていたので、杓子定規の運用ではないようです。
いずれにせよ、なるべく早い段階で対処しておく必要がありそうです。そもそも「特定空き家」にしないための手当が最も重要なのではと感じました。
前述したように、今回の件は空き家が長年に渡って放置されていたことが根本の原因です。それは「家財やゴミの片付けに多額の費用がかかった」というところからも伺えます。
家財やゴミで埋まっている状態だと物件の劣化は進行しやすいものです。また、屋根や外壁の小さな傷を放置することも建物のダメージを早めます。
このあたりに数万〜数十万円程度の費用をかけて維持しておけば今回の事態は避けられた…のかもしれません。詳しい状況が不明なので、軽々しくは言えませんけど。
松江市の空き家対策
それでは、松江市ではどのような空き家対策を行っているのでしょうか。あわせて伺った内容を掲載しておきます。
松江市空き家バンクを活用
担当の方もやはり「特定空き家にしない」対策を重視しているとおっしゃっておりました。そのなかでも空き家バンクを重視しているようです。
松江市の空き家バンクの特徴としては「不動産事業者との仲介契約を義務」としている点が挙げられるかと思います。
成約率の高さはここに要因があるとも言えますが、そのぶん敷居を上げていて登録数が伸びていないような印象を受けます。何事もメリット・デメリットがありますね。
終活セミナーでの周知
面白いなと思ったのはこの取り組みです。建築指導課ではいわゆる各所の「終活セミナー」に出向いて、空き家の対策について周知をしているそうです。
とくに「登記」については重要視しているようです。
今回、強制執行に至った大きな要因として「不動産登記・所有者」の問題は間違いなく挙げられると思います。
空き家を売却・処分するにしても、ここははっきり結論をつけていないと後々大きなトラブルにつながるものです。
これは体も頭もはっきりしているうちに、早めに対処をしておきたいポイントの筆頭であると言えましょう。なるほど終活セミナーで話す道理です。
ブログ主のメモ帳
今回の代執行ニュースは、山陰の空き家業界を震撼させました(?)。
松江市議会の議事録を読むと、どうもこの物件については過去に数回話題になっていたようです。「ある日突然強制執行となるといった話ではない」と担当の方も強調されていたので、実際そうなのでしょう。
空き家の管理は個人の責任というのが現状の行政スタンスですので、ともかく早めの対処が重要となりそうです。
再三同じことを書いている気がしますが、空き家問題は行政だけで解決する問題ではありません。ぜひ民間の力がこの業界(?)に一層注がれることを期待します。